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はじまりの季節 — 第16話

【35歳・待ち合わせ】婚活うまくいかない男(30代)の震える声|オソコイ 30代の恋愛体験ストーリー

3分

主人公: 35歳 / 研究職

女性と話せない初デート緊張30代

逃げ出したくなる前夜

「……どうしよう。何を話せばいいんだ」

金曜日の夜。35歳の研究職、隆史は、ベッドの上で頭を抱えていた。 明日、マッチングアプリで知り合った同い年の女性と、駅前のカフェでお茶をすることになっている。

アプリに登録し、何十人にも断られ続け、ようやく奇跡的にマッチングした相手だった。メッセージでのやり取りは2週間続き、趣味の読書の話でなんとか繋ぐことができた。 しかし、いざ「直接お会いしませんか」と約束を取り付けた瞬間から、隆史の心臓は狂ったように鳴り続けている。

隆史は、これまでの35年間、プライベートで女性と1対1で話した経験が一度もなかった。 中高一貫の男子校から理系の大学へ進み、そのまま男ばかりの研究所に就職した。女性と話す機会といえば、コンビニの店員か、ごくたまに話す他部署の事務員くらいだ。

「35歳 女性と話せない」 スマートフォンの画面には、何度も検索したその言葉が履歴に残っている。

検索結果には「まずは聞き役に徹する」「共通の話題を見つける」「笑顔を絶やさない」といったアドバイスが並んでいたが、隆史にはそれが絶望的に難しく思えた。 そもそも、自分のようなつまらない男が話しかけて、不快に思われないだろうか。いっそ、急病を理由にドタキャンしてしまいたい。そんな卑屈な考えばかりが頭を巡っていた。

沈黙の恐怖と、枯渇する話題

翌日。隆史は約束の15分前に待ち合わせ場所に着いていた。 何度も鏡で寝癖を確認し、手汗をハンカチで拭う。

「あの、隆史さんですか?」

声をかけられ、振り返る。そこには、写真通りの柔らかい雰囲気を持った女性が立っていた。 「あ、はい! はじめまして、隆史です。よろしくお願いします!」 声がひっくり返りそうになるのを必死に抑えた。

カフェに入り、向かい合って座る。 メニューを決めるまでの数分間が、永遠のように感じられた。

「えっと……今日は、いい天気ですね」 「そうですね。少し暑いくらいですね」

そこから先が続かない。隆史は昨日ノートに書き出した「休日の過ごし方」や「好きな食べ物」の話題を必死に頭の中で探したが、緊張で頭が真っ白になり、言葉が出てこなかった。 1分、また1分と、無情にも沈黙が落ちる。アイスコーヒーの氷が溶けるカランという音だけが響いた。

(終わった。完全に呆れられている) 隆史は俯き、自分の靴のつま先を見つめた。女性と話せない自分に、恋愛なんて土台無理な話だったのだ。

上手く話せなくてもいい

「……あの」

静寂を破ったのは、向かいに座る彼女の声だった。 隆史が顔を上げると、彼女は申し訳なさそうに小さく笑っていた。

「すみません、私、ものすごく緊張してしまって……。実は、男性と二人でこういう風にお話しするの、数年ぶりなんです」

隆史は目を丸くした。 「え……? 緊張、しているんですか?」 「はい。ずっと心臓がドキドキしていて、何を話したらいいか分からなくなってしまって。隆史さんがせっかく時間を作ってくれたのに、退屈させていたらごめんなさい」

その言葉を聞いた瞬間、隆史の中で張り詰めていた糸が、ふっと緩むのを感じた。 自分だけではなかったのだ。彼女もまた、不器用で、同じように緊張してくれていた。

「僕もです」 隆史は、今日初めて、心からの言葉を口にした。 「僕も、女性と二人で話すのなんて初めてみたいなもので……昨日からずっと、ドタキャンしたいくらい緊張していました」

それを聞いた彼女は、少しだけ目を丸くした後、安心したようにふわりと笑った。 「そうだったんですね。なんだか、少し安心しました」

「……緊張しますね」 「はい、緊張しますね」

気の利いた会話術なんて必要なかったのだ。「上手く話さなければ」という呪縛から解き放たれた二人は、少しずつ、ぽつりぽつりと自分たちのペースで言葉を交わし始めた。 アイスコーヒーの氷が完全に溶け切る頃には、隆史はもう、沈黙を怖いとは思わなくなっていた。

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